2018年、クリスティーズが主催するオークションに「AI(人工知能)が描いた絵画」という触れ込みでパリのアートコレクティブObviousによる絵画「エドモンド・ベラミーの肖像(Edmond de Belamy)」が出品されました。この作品は43万2500ドル(約4800万円)で落札され、「AIが描いた絵画」に高額な値がついたとして世界的なニュースになりました。
このニュースはさらに複雑な経緯を経て大きな話題となっていきます。
当時まだ19歳だったロビー・バラット(Robbie Barrat)は、Obviousによる作品は自分が1年以上前にネットで公開したニューラルネットワークの作品を盗用したものであり、それをそのまま売っているのはおかしいとTwitterで非難しました。実際に、オープンソースのソースコードをシェアするWebサービスであるGitHubには、ロビー・バラットによるコードがObviousの作品よりもずっと前に公開されています。
GitHub
https://github.com/robbiebarrat/art-DCGAN
Obviousによる「エドモンド・ベラミーの肖像(Edmond de Belamy)」
オープンソースの他人のコードをそのまま用いて生成した作品は、果たして誰のものなのか、またそのようにして生成された作品には独創性があるのか、現代のテクノロジーとアートを巡って大きな問題提起となりました。この事件はAIとアート、さらには現在のAIを巡る混乱を象徴しているように思えます。
「AIが描いた絵画」という言葉からは、AIがあたかも自らの意思で自発的に絵を描いたような印象を受けます。さらに、AIが自らの美意識を持った意思や人格を備えた存在と捉える人も多いのではないでしょうか。しかし、この絵画を描いたプログラムはそうしたイメージからはまだ遠くかけ離れています。
ロビー・バラットの作成したプログラムはGANs(Generative adversarial networks:敵対的生成ネットワーク)というAIのアルゴリズムを用いています。このアルゴリズムは、競合する2つのニューラルネットを用います。一方は画像の生成(Generator)、他方は識別(Discriminator)を担当します。生成は識別側を欺こうと学習して、識別は正確に識別しようと学習します。
この目的が相反した2つのネットワークが学習を繰り返すことで、与えられたデータの集合から今までになかった画像を生み出すことが可能となります。
ここで重要なことは、画像を生成するGANsのアルゴリズムは、あくまで大量の画像データ(データセット)をニューラルネットワークで機械的に処理しているだけで、そこには意思や美意識などは存在していないという点です。
生成された結果から美を見出しているのは、あくまでそれを鑑賞している人間側の意識の働きなのです。
それでは、なぜ多くの人々は「AIが描いた絵画」という言葉に騙されてしまうのでしょうか。それは、今AIと言われている技術が具体的に何をしているのか、多くの人々が理解していないからに他なりません。AIを得体の知れないブラックボックスにしてしまうことで、AIが人間と同じように意識や知性を持っていると過剰な期待をしたり、逆にAIが人類を攻撃するようになるのではないかという恐怖心を持ってしまうのです。
easelMLでは、実際にAIをプログラミングしながらその仕組みを学習していきます。
その過程を通して、現在のAIと総称されている技術が実際に何をやっているのか、何が可能で何が不可能なのか、具体的にイメージできるようになります。そのことによって、AIに対する過剰な期待や恐怖心から解放され、正しくAIについて理解することができるでしょう。